「いまはフィリピン、フィリピン!!」
実録・投資セミナー海外不動産編①
ジャイコミ編集部
投資セミナーに行けば、販売会社がどんな投資商品を売りたがっているのか、どのような口説き文句を使っているのかがわかる――。
海外不動産投資は、アベノミクス相場による株高で利益を得た個人の関心が高いと言われる。だが、セミナーに数回参加したうえでの結論から言うと、一筋縄ではいかない世界だ。では、めくるめく魅惑(?)の世界を紹介しよう。
いまはフィリピン、フィリピン!!
いまは「買い」のとき、いま買って損はない!!これまでマレーシアやタイが人気だったが、これからはフィリピンを加えた「3強」とカンボジアの「プラス1」の時代。でも3強の中ではフィリピン。1人当たりGDPの伸びは今後も期待できるし、リーマン・ショック後の株価もマレーシアなどに比べていい。
セミナーはのっけから中年男性講師が煽ってきた。ほとんどバナナの叩き売りのようなセリフだ。
脂ぎった見た目同様、口調も暑苦しい。
このセリフで分かるように、昨年くらいから日本人の海外不動産投資の中心地はマレーシアではなくフィリピンに移っている。この手のセミナーで解説されるフィリピンの利点は概ね次のようなものだ。
盛りだくさんに語られるフィリピンの魅力
まず直行便で日本から4時間の距離。加えて永住権が得やすい。その手段となる退職者ビザは、35歳以上50歳未満の人だったら5万ドル、50歳以上なら2万ドル、50歳以上で年金をもらっている人なら1万ドルを、現地で定期預金として預けておけば取得できる。
もう1つ大きいのが人口動態だ。フィリピンは2020年までに中流層が2900万人に増加する見込みという。中流層だけでマレーシア1国の人口に匹敵する規模となる。タイはあと10年、20年すると高齢化を迎えるが、フィリピンはそうではない。さらに不動産にかかわる契約書は英語で作成されるため、信頼度が高くなるという。
セミナーの冒頭は基本このような話で始まる。全体感をつかんだうえで、次は地域の話に。フィリピン不動産に関するセミナーなら、ここも大体同じような話が聞けるはずだ。
フィリピンの投資エリアは大きくマニラとセブの2つ。
セブはマニラから飛行機で1時間。ビジネスエリアもあって、コールセンターなどの企業が集まっている(フィリピンはコールセンター業務の市場規模でインドを抜き世界一)。不動産はマニラより価格帯が低い。そのマニラは、投資エリアがマニラ市近郊のマカティ市、オルティガス地区、グローバルシティ地区の3つに分かれる。マカティは東京の丸の内と銀座を足した感じで、「フィリピンのウォール街」とも言われる。オルティガスは日比谷みたいな場所でアジア開発銀行の本部などがある。グローバルシティは言ってみれば横浜みなとみらい。元は空軍基地があった。
やっぱり「上がってナンボ」の世界?
セミナーで紹介されるのは、この3つの地域にある物件になることが多い。価格は同じコンドミニアム(分譲マンション)と言っても400万円台から5000万円台の最高級物件までと開きがある。
では投資の成果はどの程度見込めそうなのか。
インカムの利回り(年間賃料収入÷購入価格)は8%以上。単年で実質8%の利回りとなれば、10年で購入額の8割回収できる。 モノによってはこれが10%以上ある。さらに年間平均7%で価格が上がっている。為替差益もいれると(10年で購入額の)1.5倍以上になるチャンスも。海外不動産投資の魅力は一言でいうとやはり値上がり期待にある。
この説明だけだと投資妙味はかなり大きい。しかし、維持管理などの諸費用が入ってるかどうかまで聞かないと判断はできない。
費用面については次のような説明がさらりとされた。
購入時は当社のフィー込みで物件価格の8%の諸経費がかかる。諸経費は印紙税2%や取得税0.5%、登記税2%、事務費用0.5%。加えて、予約をサポートする当社に3%。1550万円の物件だったら46万円となる計算。
また、ランニングコストとして3%程度かかる。グロスの利回り(表面利回り)が8%なら維持管理3%を差し引くと5%に。
あれ。グロスの利回り、あんまり高くない・・・(´・ω・`)
もちろん物件によって利回りは変わるが、やっぱり値上がり期待にかけろということ?
日を改め、他の会社のセミナーも覗いてみた。そこで聞いたのは・・・
いまはフィリピン、フィリピン!!
ホップ・ステップ・ジャンプでいうと、香港やシンガポールの不動産価格はすでにジャンプしている。マレーシアはステップの段階。フィリピンはホップに入ったところ。
思わず耳を疑った。またも飛び出した「いまはフィリピン、フィリピン!!」のフレーズ。
こちらの講師は日焼けでなのか疲労からなのか顔が土気色。目の下にはクマができており不健康そうだ。販売ノルマがきついのだろうかと邪推してしまう。
セミナーの流れはほぼ同じだ。フィリピンの国としての魅力から始まり、マカティ、オルティガス、グローバルシティの各地区の話に移っていく。
プレビルドの「建たないリスク」には触れず
一方で気になるのが、前に参加したセミナーもそうだが、アジア新興国での不動産投資で必須の知識といえる「プレビルド」(「プリセール」「プレセール」とも呼ばれる)についての説明がほとんどないことだ。
プレビルドはいわゆる「青田買い」を想像すればいい。ただ、日本での完成前物件の販売と最も違うのは、着工前の設計段階(図面の段階)に販売されて、かつ途中で転売できる点。4~5年かかる工事中でも、できてもいないのに物件価格の値上がりを見込んで売買が繰り返されている。
しかし、問題なのは「建たない」というリスクがあることだ。
日本の場合は大手ゼネコンが資金を用意して下請けの工事会社などに支払いをするので工事が止まることはないが、新興国などでは販売が上手くいかずに開発資金が確保できなかったら、そこで工事がストップしてしまうという。
セミナーで物件を紹介する講師からすると、プレビルドは海外不動産投資における一般常識なので特段触れることもないという認識だろうか。
その反面、ローンについての説明は親切だった。
支払いは基本①申込時の一括払い、②申し込み時は物件代金の20~50%を頭金として支払い、竣工時に残額を一括で支払う、③頭金を竣工まで毎月分割で払い、竣工時に残額を一括で支払う--の3つある。
ではキャッシュ(現金)がないとダメかというとローンもある。スルガ銀行は投資用に貸し出す数少ない銀行。投資用不動産向け貸し出しの半分はスルガともいわれる。スルガフリーローンの金利は年6~7%。竣工時の残額の支払う時に使える。
スルガ銀行といえば、地銀のなかでも独自性で知られる。海外不動産投資の場合、担保となる物件が国外にあるため、日本国内の金融機関は嫌がるかと思いきや、さすがスルガ銀行だ。でもフリーローンなので金利が高い!
セミナーに参加して思うのは次のようなことだ。
不動産は株式や債券といった金融商品以上に個別性が高い商品と言える。当たり前の話だが、同じ地区の物件でも立地条件や内装で価格は変わる。個別物件を検討する前提として、その国の概況を知ることは重要だが、「いまはフィリピン!!」という雰囲気だけに流されてはいけない。
それとローンなど「買い方」の説明はしてくれるが、誰も「売り方」の説明はしてくれない。実はこちらの方が重要ではないか。
この項の最後として、海外不動産の営業マンのチェックポイントを伝授しよう。
「海外不動産の営業マンは『金融上がり』の人が多い。大体は目を見ればわかる。彼らは目が鋭い」
独断と偏見かもしれないが、不動産業界の出身者が海外不動産業者をこう評していた。
彼に言わせると「不動産屋とは物件の目利きと売買のタイミングが腕の見せ所」で、不動産の取引を実体験として知っていないとダメ。「金融上がりの人は不動産開発業者の視点を持っていないので、目利きはできない」と指摘する。
信じるか信じないかはあなた次第!!
次回は「プレビルド購入のローン裏技教えます!実録・投資セミナー海外不動産編②」
投資セミナーに行ってみた!!~クラウドファンディング編~はこちら
あなたの外国株投資は店頭取引?委託取引?ある男性の憤怒はこちら
関連記事
-
基本の話by前田昌孝(第29回、株式分割の効果)
直近で72銘柄が株式を分割 2024年から少額投資非課税制度(NISA)が大幅に衣替えし、若
-
2015年を読む①
伊藤稔の目
米国経済を機関車役に底堅い相場日本個人投資家協会副理事長 伊藤稔 安倍晋三総裁が率いる自民党が、12月14日の衆議院選挙で圧勝し
-
当面幅広いレンジで上下動、吹き値はひとまず売り
木村喜由のマーケットインサイト前回号以降、株式市場は一時急落し、9月29日にTOPIXは1371.44、日経225は1万6901円
-
映画「THEFIRSTSLAM」と私のびっくり予想2-23・1・15(第1154回)
映画「The First Slam Dank」と私のびっくり予想「ウクライナ侵攻は秋に終
-
投資の羅針盤
マイナス金利は「百害あって一利なし」日本個人投資家協会副理事長 岡部陽二 日銀は1月29日にわが国史上初となるマイナス金利の導入を発表