映画「天国と地獄」とコロナショックでも外国人投資家が買い続けている一部上場7銘柄(第1023回)

 ご存じ黒澤明監督の名作。営利誘拐罪に対する刑の軽さへの憤りが反響を呼び、刑法改正につながった。しかし現実には吉展ちゃん事件など誘拐事件が続発したことも記憶に新しい。

 ストーリーは有名なのでできるだけ簡略に。

 製靴会社の常務権藤(三船敏郎)は、密かに自社株を買い占め、近く開かれる株主総会で経営の実権を握ろうと企んでいる。

折も折、息子の純への誘拐が行われるが、犯人は友達の運転手の息子の進一をさらってしまう。身代金3000万円を権藤は要求される。しかし決め手となる株への購入代金を大阪に持参しなければならない。秘書に逡巡を見通され、裏切られる。

 地位も財産もすべて失うリスクは覚悟のうえで、権藤は身代金を支払う決意をする。犯人の指示通り、特急こだまに乗り込む。酒匂川の鉄橋で3000万円を入れた鞄を投げ、進一は救われる。

戸倉警部(仲代達矢)率いる捜査陣はアジトを突き止めるが、共犯の二人はヘロイン中毒で死亡。マスコミには身代金に使われた紙幣が使われたという記事を書かせる。鞄に仕込まれたボタン色の発煙が手掛かりとなり、犯人(山崎努)が浮かび上がる。戸倉は確実に死刑にするため、竹内を泳がせる。アジトに共犯者を殺しに来た竹内は逮捕される。

 死刑が確定した竹内の希望で権藤は面会。最初のうち不敵な笑みを浮かべて語る竹内だが、権藤が再び出資者を得て別の製靴会社の社長になったと聞いて、いらいらし始め、「権藤邸は天国、自分は地獄にいた」と、恨み言を述べた後、突然金網につかみかかり、絶叫する。

そして誰もが強い印象を残すラストシーンだ。二人の間にドカンとシャッターが下り、権藤の後ろ姿にエンドマーク。

この映画が公開された1963年当時、大企業と中小企業の差を天国と地獄に例える向きが多かった。「二重構造」という言葉と共に。

 今週、私は素晴らしいレクチャーを聞いた。経営塾フォーラム例会で、岡三証券グローバル・リサーチ・センター理事長高田創さんの「コロナショックは何をもたらすか」である。

内容は多岐にわたるので、かつてのバブル時代と今回の比較に絞る。

バブル時代には①不動産②建設③卸小売りの三業種で上場企業が多く、救済には社会的反発が強く時間がかかった。その結果、大手銀行のバランスを直撃した。

コロナショックの方は、7業種。陸運(含空運)、小売り、宿泊、飲食、生活関連、娯楽、医療福祉関連。中小企業と地方銀行が打撃を受け、弱者救済の名目が立てやすい。いわば責任論が生じにくい。上場企業が少ない。巨額の救済資金が投入され手も反論が出ない。

別の観点から、バブルの打撃を考える。日本の国富は2500兆円から1000兆円ダウン!「資産デフレ}が発生し、金融システムには大打撃があつた。

このため、今回は「資産デフレ」を起こさないような配慮がみられる。このため第二次大戦時に匹敵する金融緩和があっても、株高はむしろ歓迎される。

ただし、弊害というか副作用として中小企業と大企業の格差拡大が生じる。中小企業は売上高14%減だと赤字だが、大企業は37%の売上高減まで耐えられる。21世紀版の二重構造だ。

高田さんはこれに加えて、日本企業の耐久度が向上し、米国を大きく抜いていることも指摘している。

チャートが出ないのは残念だが、最近数字で述べると日本の自己資本比率(中央値)は52・8%、米国は39・8%。日本企業が、バランスシート調整を進めた結果である。

恐らくこうした分析を見て、欧米の年金運用会社や大手ヘッジファンド、最大

のベンチャーキャピタルが対日投資を進めている。

 例によってパルソナス・インベストメントの宮島秀直チーフストラテジストの資料がこの新しい動きを分析している(7月20日付)。

条件は①東証第一部上場②相対PERが低い③コロナ不況下でも増益確保。テーマは「新世界秩序」。欧州以上に日本には魅力的な企業が多い。として主に次の銘柄を買いこんでいる。

  1. バリューコマース(2491)。イチローが設立当時大株主になったことで知られた。事業はインターネットサイトやブログ、メールマガジン(広告を掲載し、広告主から報酬を得る「アフィリエイト・プログラム」がいい
  2. サイバーエージェンシー(4751)。ゲーム「グラブル」などが有名だが、政府、自治体ドラッグストアなどのデジタル化支援や広告支援が主力。
  3. イー・ガーディアン(6050)キャッシュレス決済の本人確認証や取引監視が好調。ネットセキュリテイ事業が巣ごもり消費に適合。
  4. メディカル・データ・ビジョン(3902)オンライン診療支援が急増し今後の見通しもいい。個人向け健康情報記録サービス「カルテマ」軸にデータ共有推進も魅力。
  5. 日本オラクル(4716)米国オラクルの日本法人で、ビデオ「会議ZOOM」が成功し、マイクロソフトとの国内接続が5月から開始、連続増配か。
  6. チェンジ(3962)企業は公共団体に対するIT技術やデジタル人材育成サービス提供で業績拡大。ふるさとナビの運営も。
  7. eBASE(3835)食品業界でのトーサビリティ管理で脚光を浴びている。2022年の原料減産地法の施工が魅力。

映画のセリフから。戸倉警部が権藤と解放された進一と抱き合っている姿を見て言う。「これから手加減はいらん。(中略)あの人のためだ。みんなそれこそ犬になって犯人(ホシ)を追うんだ!」。ショックから一段落した現在、銘柄選びが本格化する時期です。幸い、セル・イン・メイが多少遅れて出現して押し目を作ってくれているし。

最後に老人のひとりごと。先週、投機筋の売り仕掛けを予測した。一つだけ、売りは月曜だけと見たが、売ってみて2万2000円割れると見たのだろう。追撃にかかっている。円買いと両建て。4~6月期の決算でよくないのを改めて売り材料視して売っている。これは7月で終わり。日経平均先物への投機筋の動きから見て、来週は反発と読んでいる。

関連記事

世界景気は減速しそうだが米国は連続利上げへ
木村喜由のマーケットインサイト

日本の株式市場は堅調だが、世界的に見ると大荒れの前兆現象が見られ、先行きは楽観できない。 前回

記事を読む

今井澈のシネマノミクス

織田信長「桶狭間の戦い」と今回の3万円越えが通過点である理由。そして目標値(第1053回)

 1560年6月12日のこの戦いは、小人数で十倍の大軍を破り、大将の今川義元の首をとった。戦史に残

記事を読む

今井澈のシネマノミクス

【初・中級者向き】映画「アリー/スター誕生」と2019年の日米株式市場の動向

アカデミー賞候補とうわさされる映画を最近続けて2本、観た。一つは「グリーン・ブック」そして今回の「ア

記事を読む

基本の話by前田昌孝(第3回)

株式投資は何のためにするのでしょうか。先日も新聞の電子版を読んでいたら、次のような記事がありました

記事を読む

20周年セミナーとジャイコミが『週刊エコノミスト』に掲載されました。

2月25日に開かれた日本個人投資家協会創立20周年記念セミナーとジャイコミ開設が、『週刊エコノミスト

記事を読む

PAGE TOP ↑