高値更新!?、日経225を斜め切りしてみた
高値更新!?、日経225を斜め切りしてみた
部分的に大きなバブルがあるのは確実、はしゃぐのはやめましょう
日経は朝刊の見出しに最大の活字で「日経平均 最高値」と打った。確かにそれは嘘ではない。だが前にも書いたように89年末の最高値当時とは構成銘柄が大きく変わっており、個別銘柄の寄与度にも極端なバラツキがある。時間の経過や貨幣価値の変動、金利水準などを冷静にカウントすれば、大喜びするほどの上昇ではなく、まだまだ十分評価されていない銘柄も多く残っている。この程度の上げではしゃぐのはやめましょう。
原則等株数を買い付ける、巨額の225連動ETF(ほとんどが日銀保有)の残高が50円額面換算で1銘柄当たり2500万株程度(約29.3兆円)入っており、この他にも日銀のTOPIX型ETF、およびGPIFのTOPIX型バスケットが合計85兆円規模で存在しているため、発行株数の少ない銘柄に対しては89年当時ほどではないが、実力以上に株価が上がる品薄効果が発生している。
いつものように時価総額ベースとインデックスベースで日経225の株価指標を比較してみよう。日経新聞に書かれている予想PERは前者で、16.47倍になっている。筆者の計算では今後の増額修正を見込んで15.79倍となっている。時価総額650兆円に対し純利益は今期41兆1563億円、来期38兆6130億円としている。株主資本は441兆4416億円でPBRは1.473倍である。1年間の実績配当利回りは2.179%。
これに対し後者では、225銘柄のみなし株価合計は1,174,107円、一株利益EPS合計は49,885円、配当金は19,002円、株主資本は556,657円なので、予想PERの今期23.54倍、来期24.52倍、PBR2.109倍、配当利回り1.618%である。実際に投資して直面するのはこちらの数字であり本当のプロはこちらしか見ていない。各指標は時価総額ベースより43-49%より割高になっている。
さらに、89年末当時から継続している132銘柄と、新規採用組の93銘柄とで指標を比較してみよう。株価、配当、EPS、資産価値の順に並べると、前者は404,033円(構成比34.4%)、8215円、24,282円、252,137円なので、配当利回り2.033%、PER16.64倍、PBR1.602倍。
新規採用組は770,044円で全体のほぼ3分の2、以下10,787円、25,603円、304,520円なので、配当利回り1.401%、PER30.08倍、PBR2.529倍。だいぶ高いなあ。2000年4月の大量入替時に値がさ電機が大量に入り、その後も指標の高い超値がさ銘柄が入ったので、こんな数字になっている。
さらに切り口を変えて、みなし株価上位15位までのうち新規採用組13銘柄とその他212銘柄を比較してみよう。13銘柄合計で534,545円、これだけで構成比は45.5%で半分近い。配当利回り0.933%、PER47.83倍、PBR3.581倍で文句なしに割高だ。
割安銘柄は依然として割安感が残っている
残りの212銘柄の合計は、株価639,562円、構成比は54.5%で半分強でしかない。配当利回りは2.191%、PER16.52倍、PBRは1.570倍だ。これならまだ割高感は乏しく、タイミングあるいは個別銘柄を捉えて買い増ししてもよい水準といえるだろう。
前回も書いたように、日本株全体のファンダメンタルズは、ドル円が高くなるほどEPSもBPSも改善する構造になっている。また為替相場の構造は、今後の日米金利差縮小のインパクトよりも、ゼロ金利に近い国内資金が外に流出しようとする圧力の方が強いため、長期的に見ても円安ドル高の方向に進むと見られる。したがって長期投資の観点に立つならば、現状でも比較的株価指標の割安な銘柄を持ち続けるのが得策という結論になる。したがってかなり上がって割高感が出てきたり、今後の上昇余地が狭まってきたと思える銘柄から、割安で好みの銘柄に資金を徐々にシフトさせるのがよい。
グロース市場の銘柄が冴えないのは、新規上場上人気の剥落するタイミングのものが多く含まれ、平均でもPERが50倍以上、PBRが3.4倍とかなり割高であり、個別銘柄をよく見てもストレートに成長シナリオを想像するのが難しい銘柄ばかりだからである。今のマーケットはけしてリスクプレミアムを低くして将来期待に賭けるのに適した環境にはないから、株価指標の割高な銘柄は本来なら選択されない。
現在最も大きく上がっているのは生成AI関連のプラットフォームや半導体を扱っている銘柄だが、生成AIがレベルアップして行くとともに小型軽量化、省電力化が進んでいくのは確実である。現在の市場では、大規模なクラウドサーバーでビッグデータ検索に莫大な電力を消費する生成AIビジネスのモデルを前提としているが、競合が増えたり低価格化が進むことにより、そちらに落ちるお金は急速に縮小する可能性が高い。
このほど、日本の生成AI開発ベンチャーであるKarakuri社が、スタッフわずか数名、データの学習に要した期間わずか3日、直接の開発費用わずか1千万円以下で国内最高レベルの日本語LLM(大規模言語モデル、ほぼ生成AIと同じ意味で用いられる)を開発したと伝えられた。高価なNVIDIA製の生成AI用のGPUを使わず、アマゾンウェブサービスのTrainiumというGPUを用いた。完成したLLMは現在最先端とされるマイクロソフトのGPT-4との比較で、数学的処理能力は見劣りするが、日本語での質問理解力、および回答記述・表現能力はこれを上回ったという(IT系ライター清水亮氏の記事より)。
現実の業務では反復的で定式化された作業が多く、学習が進めば莫大なデータベースにいちいち当たる必要はなくなる。その分高速化され、データベース利用料や電力などの経費も削減されるはずである。現在の市場はそこまで思考が及んでいないから、高い確率で生成AIバブルと呼んでよいと思う。
(了)
この記事は木村喜由のマーケット通信特別公開版です。
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