基本の話by前田昌孝(第38回、トランプ政権のリスク)
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日経平均株価が2月28日に1100円も下落し、2025年に入って初めて3万8000円を下回りました。過去最高値更新などに沸いた1年前と大違いです。市場は日々、さまざまな材料に一喜一憂していますが、大きくは米トランプ政権の通商政策に対する警戒感が足を引っ張っているようです。投資家には憂鬱な日々が続くのではないでしょうか。
日本は軟調、米国は堅調
2024年末の日経平均は3万9894円でしたが、2025年に入ると、1月が月間で321円安、2月が同じく2417円安になりました。トランプ氏が大統領に就任したのが1月20日ですから、就任後の下げ幅も1296円になっています。グラフのように、2月28日終値は3万7155円と、前年2月末の水準を下回りました。

一方、米ダウ平均は1月17日が4万3487ドル、2月28日が4万3840ドルですから、やや堅調に推移しています。日経平均と異なり、1年前の水準を上回っています。「米国を再び偉大に」というトランプ大統領の政策が、米国経済にとっては一応、プラスと受け止められているようです。

東京株式市場の1年前を振り返ると、日経平均は2月22日に3万9008円と、バブル期の1989年12月末に付けた3万8915円を34年ぶりに上回り、3月4日には初めて4万円台に乗せるなど、市場は先高観で満ちていました。少額投資非課税制度(NISA)が大型化し、多額の個人マネーが株式市場に流入してきたことが支えになりました。
ちなみに金融庁の発表によると、NISA口座を通じての新規買い付け額は2024年1~3月期が6兆1777億円、4~6月期が3兆9565億円、7~9月期が3兆6591億円、10~12月期が3兆6553億円でした。1年間の合計では17兆4485億円になります。

2023年末までの旧NISAでは、一般NISAとつみたてNISAを合わせた年間の買い付け額が2022年4兆4691億円、2023年5兆2381億円といったところですから、当時の3~4倍の個人マネーが非課税措置を求めて動いていることがわかります。
2025年に入ってからも、非課税の恩恵を求めて動いている個人マネーは多いようで、東京証券取引所が公表している投資部門別売買状況をみると、個人の現金取引(個人の売買は現金取引と信用取引とに分かれていて、信用取引はNISAの対象外)は1月に2606億円、2月に第3週までで1270億円の買い越しになっています。個人の現金取引は相続絡みの売却なども多くて、大半の月は売り越しですから、積極的に買いに入る個人が多くて買い越しになるのは、珍しいことです。
半導体輸出規制と関税政策
そうはいっても、個人の買いぐらいでは相場全体を支える力はありません。2025年に入って日経平均が500円以上の幅で下げたのは、1月に3回、2月にも3回ありました。
そのときの下落の主因を振り返りますと、大発会だった1月6日の587円安は「年末年始の米市場の軟調で先物に売り」、1月14日の716円安は「米の人工知能(AI)向け先端半導体の輸出規制案を嫌気」、1月28日の548円安は「中国発の低コストAIショックが広がる」でした。

2月3日の1052円安は「米大統領が関税発動に署名し、急落」、2月25日の539円安は「米の対中半導体規制の強化観測嫌う」、2月28日の1100円安は「米の関税政策をめぐる不透明感が足かせ」と解説されています。
2月28日には1カ月延期していたカナダとメキシコからの輸入に対する25%課税について、トランプ大統領が3月4日に開始と表明したことや、中国への追加関税にさらに10%上乗せする方針が伝わったことが投資家の警戒感を誘いました。
米の先端半導体輸出規制の動向が株式市場で取り沙汰されるのは、内外の株式相場に大きな影響を与えている高性能半導体大手エヌビディアの事情拡大の制約になりかねないからです。米国政府は先端半導体に関連した技術が中国に渡らないように、輸出規制の網を強化しようとしています。これに対してエヌビディアは公正な手続きを踏んでいない規制の強化であるなどと反論しています。
脆弱な日本経済に打撃
関税政策は報復合戦などを招けば、世界経済のブロック化につながりかねません。自由競争が損なわれるわけですから、世界の経済成長率は低下する可能性が大きく、もともと成長率がゼロ近傍の日本にとっては大きな打撃になる恐れがあります。
グラフは世界の主要株価指数の2月28日現在の年初来騰落率を大きい順に並べたものですが、日経平均はマイナス6・9%と最下位になっています。世界経済の成長率低下が日本経済に与える悪影響がいかに大きいかを浮き彫りにしているようです。

日本から米国への輸出に関税が課されることもマイナスですが、たとえば自動車大手は米国市場をにらんでカナダやメキシコに工場を持っています。関税政策によって輸出に制約を受ければ、サプライチェーン(供給網)が混乱し、企業の収益の圧迫要因になります。トランプ政権の次の一手が予想できないため、自動車株などは買いにくい状態が続いています。
SNS(交流サイト)などではトランプ大統領が日本の消費税も関税の一種とみなして、撤廃を求めているとの投稿が散見されます。具体的にこんな発言をしたわけではなく、米国の関税率を貿易相手国と同じ水準にする「相互関税」を導入するときに、欧州連合(EU)の付加価値税(VAT)も考慮の対象に加える意向を示したことから、日本の消費税も同じとの連想が働いたのかもしれません。
トランプ大統領が唱える相互関税が導入されれば、両方の国の消費者が、関税分だけ高い商品を購入しなければならなくなりますので、景気のマイナス要因になりそうです。輸入物価が上がる分、それぞれの国内の生産者も製品・サービスの価格を引き上げるでしょうから、インフレ圧力は居残り、金融政策の運営も困難をきたすかもしれません。
ロシアの台頭招くリスク
地政学的リスクの高まりも無視できません。2月28日にはトランプ大統領とウクライナのゼレンスキー大統領との会談が、激しい応酬の末に決裂したことが報じられました。ウクライナの前途には暗雲が立ち込め、ウクライナを支える欧州諸国にも困惑が広がっているようです。
3年前に始まったロシアのウクライナへの侵攻が、ロシアに有利なかたちで終結することになれば、ロシアは旧ソ連時代の版図を念頭に、さらに失地回復のための軍事行動を起こす可能性もあるでしょう。政治的にも経済的にも欧州諸国は大きな試練のときを迎えているように思われます。
何かがあれば日経平均が500円幅や1000円幅で下げるような状態では、株式の投資家もリスクを取りづらいのではないかと想像しますが、先が見えない時代に資産を防衛するためには、やはり資産分散を心掛けるしかないでしょう。
ちなみに全世界株指数に連動するインデックス投信を買うことは、銘柄分散であって、資産分散ではありません。預金、内外株式、内外債券など金融資産への分散だけでなく、不動産や貴金属など実物資産も幅広く保有することが大切ではないかと感じます。
トランプ政権の大胆な政策は株式などリスク資産の価格変動を大きくしそうですが、考えようによっては、既存の枠にとらわれない政策の実践は、政治家らしいともいえるのです。予定調和が期待できない世界で私たちが自助努力で自らの生活基盤を守っていくためには、さまざまなリスクシナリオを想定し、問題点を一つ一つつぶしていくほかありません。
それは困難な作業かもしれませんが、何ごとに限らず、気楽に生きられる時代は終わったのです。政府にも国民の生活を守る余裕がないことは、推して知るべしではないでしょうか。(マーケットエッセンシャル主筆)
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