【初・中級者向き】 「早耳情報」は禁止します!証券アナリストの行動に新指針
日本証券業協会は7月20日、証券アナリストによる企業調査活動と投資家への情報伝達についてのガイドライン案を作成した。
未公表の業績に関する情報収集を禁じるほか、意図せずに取得した場合も投資家に伝達せずに社内で適切に管理することなどが盛り込まれている。身ぎれいなアナリストが増えるだろうか。
ガイドライン案は7月21日から1カ月間、パブリックコメント(意見公募)を実施し、修正を経たうえで、早ければ10月にも適用する予定だ。問題の発端はドイツ証券やクレディ・スイス証券のアナリストらによる不適切行為だ。
発端となったドイツ証券とクレディ・スイス証券での不適切行為
ドイツ証券は2014年12月ごろ、アナリストが東証1部上場企業から営業利益に関する概算の情報を入手し、電子メールで営業担当者や顧客に伝達していた。営業担当者はこの情報に基づいて3顧客に売買を勧誘し、すべての顧客が売買に応じていたという。
2015年12月8日に証券取引等監視委員会が行政処分を勧告し、同15日に金融庁が業務改善命令を出した。その後、東京証券取引所と日本証券業協会がそれぞれ6000万円と3000万円の過怠金を科した。
クレディ・スイス証券のアナリストは2015年9月に東証1部上場企業が業績予想を上方修正するという情報を入手し、営業担当者や顧客に伝えていた。営業担当者はこの情報に基づいて30以上の顧客を勧誘した。
今年4月15日に証券取引等監視委員会が行政処分を勧告し、金融庁が同25日に業務改善命令を出した。その後、6月16日に東京証券取引所と日本証券業協会がドイツ証券と同額の過怠金を科した。
こうした行為に対し、日本証券業協会には証券会社などから「個別企業の分析、評価等を行いアナリスト・レポートを執筆するというアナリスト本来の姿から乖離(かいり)し、市場の透明性・公平性の確保の点から問題となりうるプラクティスではないか」との声が寄せられたという。
こうした経緯を経て、今回の「協会員のアナリストによる発行体への取材等及び情報伝達行為に関するガイドライン案」がまとまった。
内容はまず発行体からの情報取得のあり方についての考え方を示し、次に顧客への情報伝達行為を6類型に分けて、それぞれ伝達してもいい情報と伝達すべきではないという情報についての考え方を示している。
アナリスト・レポートに記載のない情報は発信を制限
情報取得のあり方に関しては「未公表の決算期の業績に関する情報の取材等は例外を除き行わないこととする」「未公表の決算期の業績以外に関する定量的な情報(公表もしくは公開・公知となった情報を除く)のうち、業績が容易に推測できることとなるものは取材等しないこととする」と規定している。
逆に言えば、取材可能な情報は①定量的情報のうち、未公表の決算期の業績と無関係な情報、②公表済みの決算期の情報、③未公表の決算期の情報であって業績以外に関する定性的な情報、④来期以降の通期・中期計画や将来予想など――となっている。
情報伝達行為については、「公表済みのアナリスト・レポートに記載がなく、投資判断に影響を与える可能性がある情報などは、(アナリスト・レポート以外の方法で)伝達してはならない」「公表済みのアナリスト・レポートと矛盾せず、かつ投資判断に影響のない範囲の情報は伝達してよい」との考え方を示している。
この原則のもとで、情報伝達の6類型を示し、何が可能かを具体的に述べている。
例えば発行体の情報に関連して公表済みのアナリスト・レポートの分析、評価等と異なる内容を伝達する行為は「発行体の情報が公開・公知となっているか否かを問わず、当該情報を踏まえた新たなアナリスト・レポートを公表するまでの間は、当該情報に対するアナリストの分析、評価等について特定の投資家等に選択的に伝達することは認められない」という具合だ。
要は、業績に関する「早耳情報」は取材してはならないし、アナリスト・レポートの内容と異なる情報を一部の顧客に選択的に提供してはならないというわけだ。
アナリストの不正行為は市場の信頼感を損ない、回り回って個人投資家にも損失を与える。新ルールはガイドラインなので罰則はないが、アナリストの行為はこれからもしっかり監視する必要がありそうだ。
(ペンネーム・遠吠え)
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